ハダノ元教頭が GIGAスクール と DX人材育成 について考えるブログ
DX(データとデジタルによる変革)のうち特に重要なのは、AIによる意思決定・アクションです。ゆくゆくはAIによる業務自動化で人手不足が解消され、人はより本質的な仕事に集中できるでしょう。
「でも、AIなんて難しくて私には無理」とあきらめてはいませんか。どんな技術も「作る」のに比べて、「使う」だけならはるかに簡単です。高度なAI技術を手軽に使えるようにしたAIツールがたくさん出てきました。AIによる音楽づくりも手に届くところに来ているのです。
AIツールを自動作曲に使うのではなく、編曲支援に使うことにしました。🔗Abundant Music は、一曲丸ごと作ることに特化したツールなので素材を読み込んで加工することはできません。
🔗『Orb Composer Pro S 1.5』人工知能による最先端作曲支援ソフトウェアの上位版 …… によれば、任意のメロディーを読み込んでオーケストレーション(編曲)できる「スマートメロディー機能」があるようです。さっそく試してみることにしました。
「心が叫びたがってるんだ」の関連曲として、「グリーンスリーブス」と「悲愴」を比較検討しました。「素朴なメロディーで自己主張しすぎない」「起伏が大きすぎず長く続けやすい」などの理由で、イギリス民謡「グリーンスリーブス」に決めました。これを Orb Composer Pro S 1.5(以下 Orb Composer)で編曲して授与BGMを作っていきます。
これまでにハダノが試した作曲ツールは、8小節単位で処理するものがほとんどでした。各8小節はフレーズとして成立していても、つなぎあわせた全体を見ると一貫性に欠けていました。また、長い伴奏パターンのテンプレートをあてはめるツールだと、元のメロディーの流れを無視して強引にアレンジしがちでした。
Orb Composer は、どうなのかと思いながら、グリーンスリーブスのメロディーのMIDIを Quick import してみました。
小節数を8から24に増やしたにも関わらず、8小節ごとの細切れトラックになってしまいました。トラックを新規作成すれば24小節になるのに、クイックだと残念な結果になるようです。何か解決方法はないかと、公式チュートリアル動画を見てみると、
……先にトラックを作ってからトラックのImportボタンでMIDIを読み込めば、勝手に分割されないようです。やってみると、ちゃんと一貫性のあるアレンジになっています。
この動画では、読み込んだMIDIを「ユーザーメロディー」として固定し、他のパートをいろいろと生成する方法が出ています。また、「ユーザーメロディー」を「メロディー」に変えることで、固定をはずしてバリエーションを作る方法も紹介されています。勝手に変更されたくないものを指定できるので、「芯の通った曲づくり」ができそうです。「AI作品の脈絡なし問題」は、これで乗り越えられるかもしれません。
……など心がけながら、編曲作業をしました。
ハダノの音楽知識は貧弱なので、自力で曲をふくらませることはできません。できるのは間引いていくことだけです。 → 🔗 楽器ができないのに「キエフの大きな門」を編曲してみた!
Orb Composer の楽器もフルオーケストラを指定してから間引いていくことにしました。
金管楽器や打楽器などを Delete instrument で消しまくります。残った楽器に役割を割り当てていきます。
という8つの楽器編成に落ち着きました。再生していい感じになるまで、Creates(生成)を試みます。Intensity(強度)は、最初と最後は小さくしておきます。曲の盛り上がりに関係しているようです。
この作業をあと4回繰り返します。1コーラス24小節、第4変奏までで7分間になります。消したはずの楽器が復活していたり、楽器の役割・音色の割り当てがいつの間にか変わっていたり、Intensityがフラットになっていたり……と少々首をかしげる挙動もありましたが何とかやり切りました。
Orb Composer はVSTプラグインが使え、スタンドアロンで動きます。Midi editor でMIDIを直接編集することもできるのですが、Export MIDI で外へ書き出しました。使い慣れたDAWで仕上げる方が楽だからです。
♪ グリーンスリーブス 卒業式Ver.
制作:ハダノ 原曲:イギリス民謡 編曲:Orb Composer Pro S 1.5
VST:UVI,Pianoteq,Kontakt,Garritan,Neoverb,FireMaximizer
ジャケット画像は、画像生成AIに 「イギリス民謡を編曲」 と打ち込んで生成させたものを入れました。体の細部の破綻や奇妙な楽器など気になる部分もありますが、それっぽい雰囲気は出ています。
🔗AIで作曲してみた! の記事の中で、
”楽器音と同じく、曲も「規則性」と「不規則性」のバランスが大切です。Abundant Music は、オープンに試行錯誤・再現できます。音楽理論の知識がなくてもOK、……パラメーターの意味を理解して指定すれば、もっとねらい通りのものを出せるようになるでしょう。”
と述べました。
ただ、その道のりは遠いと言わざるをえません。幼少からヴァイオリンを習い、ジュニアオーケストラにも所属していたS君には、AI自動作曲の「脈絡のなさ」は簡単に見抜かれました。曲が長くなればなるほど破綻しやすくなります。AIだけで長大な交響曲を作曲するのは、まだまだハードルが高そうです。
ハダノが昔からずっと引っかかっていた疑問があります。
「自然の風景を見て感動することはあっても、自然の音を聴いて感動することはない」
言い換えれば、
「寄木細工やマーブリングのようにつぎはぎや偶然の産物でも美術として成立するが、音楽は成立しにくい」
ということです。風鈴の音は、美しくても音楽ではありません。
はたして、「視覚芸術と聴覚芸術の違い」なのか、「空間芸術と時間芸術の違い」なのか、「具象芸術と抽象芸術の違い」なのか、それとも「音楽特有の何か」なのか……
🔗 「音楽する脳 天才たちの創造性と超絶技巧の科学」 によれば、私たちの脳の「統計学習機能」が音楽的感性・創造性と深く関わっています。統計学習は、一音ごとの遷移確率を計算するだけでなく、「チャンク(まとまり)機能」によって音楽に階層構造を生み出し、膨大な潜在記憶となるようです。この階層構造が音楽的文脈となって、感情を豊かに表現するのだとしたら、感情のないAIが遷移確率計算だけで作った曲は「脈絡なし」となるはずです。情報が欠落していても想像力で補完し、雲やシルエットや心霊写真に意味を見い出すようなことは、音楽では起こりにくいので、「脈絡なし」は致命的です。
アイドル歌手から声優になった日髙のり子さんは、「♪ ETCカードが挿入されました~」の収録で、テンポ一定・抑揚なし・無感情でと要求されたそうです。チャンクを細切れにした方が合成しやすいからでしょう。この経験は、アニメ「サイコパス」のAI音声役に生かされました。
人類の膨大な音楽的潜在記憶から音楽的文脈と感情との関係を学習したAIが登場し、表現意図に沿った作曲をすれば、音楽性の高い曲ができるようになるかもしれません。それまでは、「芯となるもの」を人が与え、AIに支援してもらうのがよいでしょう。
「芯となるもの」としては、
……などが考えられます。
最も手軽なのが「メロディー」です。完成されたメロディーなら、一貫した音楽的文脈があるので、「脈絡なし」に陥ることはありません。ただし、もはや「作曲」ではなく、「編曲」になります。
プロンプトをAIに与え、「コード進行」や「歌詞」を作らせて作曲させることもできますが、
”ワンフレーズのムードはそれなりに再現できても、歌詞全体の文脈としてのトーンは理解できていない”
など、問題を包括的にとらえる能力に難ありと、音楽評論家に指摘されている段階です。 → 🔗 AIに音楽は作れる?ChatGPTに“サザン風”の歌詞を書かせて気づいた「人間との決定的な違い」
今回編曲に使った Orb Composer ですが、クラシカルな曲づくりもできる珍しいAIツールだと思います。ロック・ポップス系の4リズム(ドラム・ベース・ギター・ピアノ)編成中心の大多数のツールと違い、弦楽合奏やフルオケも実用レベルに達しているからです。
正直なところ、自動作曲で作った曲がイマイチだったり、操作をしていて「あれっ」と思うことがあったり、通常価格が高かったりで、万人に勧められるとは言えません。それでも、今後の可能性に期待したくなります。
Orb Composer は、編曲に使う分にはよいツールだと思います。こういうAIツールを使って曲作りをすることで、いいことが2つあります。
🔗 Orb Composer は、7日間試用できます。 興味のある方は、お試しあれ。