ハダノ元教頭が GIGAスクール と DX人材育成 について考えるブログ

DX(データとデジタルによる変革)のうち特に重要なのは、AIによる意思決定・アクションです。ゆくゆくはAIによる業務自動化で人手不足が解消され、人はより本質的な仕事に集中できるでしょう。
「でも、AIなんて難しくて私には無理」とあきらめてはいませんか。どんな技術も「作る」のに比べて、「使う」だけならはるかに簡単です。高度なAI技術を手軽に使えるようにしたAIツールがたくさん出てきました。音楽生成AIによる作曲も手に届くところに来ているのです。
🔗『最近話題になった 音楽生成AI まとめ』 によると、「音楽を学習してそれっぽい新曲を生成」「テキストからBGMを生成」などさまざまなツールが話題になっています。
🔗「Magentaで開発 AI作曲」には、作曲未経験でもGoogleの音楽機械学習ライブラリMagenta(マゼンタ)で簡単に作曲を試せる……と書かれています。ただ、Magentaの環境構築にはプログラミング言語Pythonについての最低限の知識は必要です。🔗環境構築なしに試せるデモサイト もありますが、

……という具合で、イマイチ感がぬぐえません。 ※ 実は、2021年夏に Magenta を試していました → 🔗 「英単語の発音チェックアプリ+AI作曲」
AIを自分でトレーニングして独自モデルを作れば、もっといいものができそうですが、知識とセンスが必要です。
テキストからいろんなものが作れると話題の ChatGPT を使った 🔗OpenAI社の Jukebox をのぞいて見ると、
このように、本格的にAI作曲しようとすると、それなりに知識・労力・費用が必要という問題点がありました。
音楽理論を知らなくても、無料で、ちょっとした合奏曲を作れ、試行錯誤でねらい通りの曲にできるようなものはないでしょうか。パクリ疑惑を受けないヘタウマな曲ができれば最高です。
そのためには、完全なブラックボックスではなく、個々のパラメーターをいじってアウトプットを変えられるものがよさそうです。プログラミングにたとえると、宣言的より手続き的なプログラミングの方が処理過程が見えやすい……という感じでしょうか。
もちろん、よさげなフレーズ案を提案してくれ、それらを組み合わせて曲に仕上げるためのツールもあります。確かに試行錯誤はできますが、ねらい通りに仕上げるにはコード理論などの知識が必須です。
やはり、そうそう都合のいい作曲ツールはころがっていないものです。
🔗Abundant Music と出会ったのは、まったくの偶然でした。
アルゴリズム作曲ツールの一種のようで、膨大な曲データのAI解析に基づく生成アルゴリズム?に従って作曲するものと思われます。最新の音楽生成AIツールとは方向性が違うので、期待せずに試してみました。
チュートリアルによれば、基本的な使い方は、
1 "Song Settings" で生成パラメータを適当に調整・設定する。
2 "Compose" ボタンで楽曲を生成する。
3 生成結果を "Player" で再生・確認する。
4 気に入ったら "Export" からMIDIデータをダウンロードする。
となっています。
生成パラメータは、やたらと多いうえにほとんど意味不明です。「やはり知識がないとダメか」と思いつつ、"Randomize Seeds"ボタンに全部おまかせして何曲か作ってみました。

驚いたことに、そこそこいい感じの曲が次々と作られます。音楽は、規則的すぎると単調だし、不規則的すぎると乱雑で聴くにたえません。ランダム生成なので毎回異なる曲が出てきますが、乱雑にはならず曲としてまとまっています。生成アルゴリズムの縛りが効いているからに違いありません。規則性・不規則性のバランスが絶妙です。
ランダム生成の欠点は、「再現性がない」という点です。Abundant Music は、乱数ではなく乱数の種をボタンで作ります。乱数の種を"Save"しておき、必要なときに"Load"すれば、同じ曲を再現できます。方針が決まっている部分は、ランダムではなく指定することもできます。
"Player" での再生音はピコピコしていて、確認の役には立ちません。すべて"Export" してMIDIを確認する方がいいでしょう。MIDIなら、ちゃんとした楽器を割り当てることができ、テンポや音量などを変えたり、切り貼りしたりと加工性も十分です。
Webアプリなのでインストール不要でどの機種でも使えます。「ここから先は有料」とか「広告がうざい」とかもなく完全無料です。
Abundant Music は理想的な作曲ツールかもしれません。
ハダノは、大学時代に友人E君の影響でオーディオに興味を持ちました。彼は、クラシック音楽を美しく再生できる高価な機器を持っていました。お古のアンプをタダでゆずってくれたこともあります。
教員になって、視聴覚担当を何度もしました。オーディオの知識が役に立つこともしばしばでした。公私ともにオーディオチェックをする機会が多いため、チェック用音源にはこだわりがあります。
これまで、「ヘンデルのメサイア」「バッハのマタイ受難曲」「モーツァルトのレクイエム」「サンサーンスの交響曲第3番」などを目的に応じて使い分けていました。できれば、一曲ですませたいし、著作権を気にせず使いたいと考えていました。
今回、オリジナル曲を作るにあたって、次のようなことを欲張ってみました。

実際の作業では、"Song settings"-"Parameters" で、電気楽器・電子楽器が使用されにくい設定にしました。ふだん聴く音楽に合わせるためです。同様に、ドラムパートもMIDIデータから消去します。あとは、"Song settings"-"Song"の Seed を変えながら作曲を繰り返します。イメージに近いものが出てきたら、"Song settings"-"Structure Seeds" で "Randomize Seeds" ボタンを押して、さらにイメージに近づけていきます。

曲を構成するセクションは、日本製の音楽ソフトは、「Aメロ」「Bメロ」「サビ」などと呼びます。Abundant Music は洋楽の習慣通り 「Verse(ヴァース)」「Chorus(コーラス)」と呼ぶようです。コーラスは合唱ではなく、サビにあたるものです。
今回作曲したものは、Intro - Verse1,1 - Verse1,2 - Verse1,1 - Verse1,2 - Verse1,1 - Verse1,2 - Chorus1,1 - Chorus1,2 - Postfix - Chorus1,1 - Chorus1,2 - Prefix - Verse1,1 - Verse1,2 - End という構成になっています。しっかり起承転結が感じられます。
MIDIデータが確定したら、楽器を割り付けます。通奏低音は、コントラバスアンサンブルのピッチカートにしました。ドラムを消去したので、撥弦楽器としてチェンバロとハープを使いました。ヴァイオリン・ホルン・トランペット・フルート・パイプオルガン・混声合唱のVSTインストゥルメントを使い、原曲の音域と楽器の音域が合わない場合は、オクターブ単位で上下させました。
二重合唱風の呼び交わす部分は、ヴァイオリンパートのパン(CC10)を左右に振ることで表現しました。
オーディオチェック用のリファレンス・ソングということで、「リファレンソング」と名付けました。
例によって、VSTインストゥルメントは UVI Orchestral Suite 、Pianoteq、Kontakt Factory Library、Garritan Aria、Halion Sonic、DAWは Cubase Elements を使っています。リバーブをかけたり音圧を上げたりしようとして、しばしば止まりましたが、何とかできあがりました。
♪ AI作曲 の リファレンソング
制作:ハダノ 作曲:Abundant Musicによる自動作曲
VST:UVI,Pianoteq,Kontakt,Garritan,Halion,Neoverb,FireMaximizer

ジャケット画像は、画像生成AIに 「AIで作曲するバッハ」 と打ち込んで生成させたものを入れました。バッハにしては目が大きい感じですが、それっぽい雰囲気は出ています。
1 Abundant Music で作った別の曲(MIDIそのまま)
2 Jukebox で作られた曲
3 プロの作曲家が作った曲
4 リファレンソング
を作曲者をふせて何人かに聴いてもらいました。
AIが作ったと簡単に見破られたのは1番だけでした。音楽の感じ方は人それぞれですが、「4番(リファレンソング)がAIで作曲されたなんて、すごい時代になったもんだ」という感想は共通していました。2番は、最新AIがプロの曲をまねて作曲したので、だまされても当然です。
ただ、今回痛感したのは「曲=音楽」ではないということです。演奏で出た音しだいで印象が大きく変わるのです。"Player"でのピコピコ再生音では、そもそも音楽に聴こえません。
♪ 1番のMIDIそのままの曲
は、
♪ 楽器の割り当てを変えた別バージョン
に差し替えると、「ちょっと単調かな」→「おおー」となりました。
「擦弦楽器」と「人の声」がはいると、人間味が増すようです。最近の音楽作成ソフトには、発音タイミング・音量・音程などを微妙にばらつかせる「ヒューマナイズ機能」を備えたものもあります。同じ曲のCDを何枚も買ってしまうのは、「演奏」自体が芸術だからといえます。鑑賞するときは、いい録音をいい再生機器で聴きたいものです。
🔗相棒と呼べる電子楽器を求めて の記事の中で、
”電子楽器は、デジタル技術による量産化で広く普及してきたが、内蔵音源は「不規則性」がないため味気ない音になりがち。”
と述べました。
楽器音と同じく、曲も「規則性」と「不規則性」のバランスが大切です。Abundant Music は、オープンに試行錯誤・再現できます。音楽理論の知識がなくてもOK、あるとさらに楽しめます。
長調・短調、2・3・4拍子、Sus2・Sus4・隣接・通過コード、メロディー・ベースラインのモチーフ・リズム、トニック・ドミナント終止形……などたくさんのパラメーターの意味を理解して指定すれば、もっとねらい通りのものを出せるようになるでしょう。
入門しやすく奥が深いツールで、夢がふくらみます。音楽教育にも大いに役立ちそうです。
🔗学校の「著作権」トラブル、例外規定の範囲は? 「10万円超の賠償金」事例もあり掲示物・動画・音楽の利用に注意 ……にあるように、学校の教員による著作権侵害が相次いでいます。
ハダノは学校紹介の動画のBGMには神経をとがらせ、他校の教頭たちにも注意をうながしていました。自校で作ったもの以外も安心できません。学校行事のようすを地元のケーブルTVが放送したり、保護者がSNSにアップしたりということを考えると、行事で使う音楽の著作権が気になります。可能な限り、クラシックのフリーMIDIを自分でミックスダウンして使うようにしていました。
オリジナル曲であれば、この苦労から解放されます。Abundant Music のように手軽に使えるAIツールで作曲できれば、著作権問題は解決です。演劇、プレゼン、動画や自作アプリにオリジナルの音楽を入れて発表すれば、表現力は爆上がりです。🔗STEAM教育(教科横断的な探究・創造型教育)にも大いに役立ちそうです。